リグレーフィールドのツタなぜ植えた?消える打球の特別ルールと秘密
メジャーリーグ屈指の歴史を誇るシカゴ・カブスの本拠地球場「リグレー・フィールド」。テレビ中継や現地観戦で誰もが目を奪われるのが、外野フェンス一面を美しく覆い尽くす鮮やかな緑のツタです。クラシックなボールパークの象徴として世界中の野球ファンに愛されていますが、その優美な景観の裏には、打球が植物の中に吸い込まれて見失われる珍事や、選手泣かせの硬質な壁といった独自のドラマが隠されています。
日本でもカブス戦への注目が年々高まるなか、「なぜフェンスに植物が植えられているのか」「打球がツタに飛び込んでボールが消えたらどうなるのか」と疑問を持つファンは少なくありません。1937年の植樹から現代に受け継がれる誕生秘話や、知っておくべき特別なルール、そして緑が織りなす季節の移ろいまで、その奥深い魅力を徹底解説します。
📌 【この記事の重要ポイントまとめ】
- 要点1:ツタは1937年に球団幹部ビル・ヴィークの発案で、殺風景な外野フェンスのレンガ壁を美化するために植えられた。
- 要点2:打球がツタに挟まって消えた場合、外野手が両手を挙げてアピールすれば「エンタイトル2塁打」となる特別ルールが存在する。
- 要点3:春先の枯れ枝から初夏の深緑、秋の紅葉まで季節ごとに表情を変える一方、ツタの裏側は頑丈なレンガ壁のため守備には危険も伴う。
【なぜ植えられた?】名物ツタの歴史と仕掛け人「ビル・ヴィーク」の知られざる狙い
シカゴ・カブスの本拠地球場であるリグレー・フィールドにツタが植えられたのは、1937年のことでした。このアイデアを生み出したのは、当時球団のプロモーション担当を務めていたビル・ヴィーク(Bill Veeck Jr.)です。後にMLB屈指の名物オーナーとして野球界に数々の革新をもたらす奇才が、若き日に手掛けたプロジェクトの一つでした。
当時、リグレー・フィールドの外野フェンスは冷たいコンクリートと無機質なレンガで覆われており、球場全体が無骨な印象を与えていました。ビル・ヴィークはインディアナポリスのマイナーリーグ球場「ペリー・スタジアム」で見た美しいツタに強いインスピレーションを受け、「ボールパークを緑豊かな公園のように心地よい空間に仕立てたい」と考えたのです。
父の代からカブスに関わっていたヴィークは、昼夜を問わず自ら苗木を植え付け、外野のレンガ壁に這わせました。当初は野球場のフェンスに植物を植えるという前代未聞の試みに懐疑的な声もありましたが、歳月を経てフェンス全体を包み込む見事な緑のカーテンへと成長し、現在ではメジャーリーグを代表する歴史的景観として定着しています。
【ボールが消えたらどうなる?】ツタ独自の「グラウンドルール」とエンタイトル2塁打の判定基準
緑豊かに茂ったツタは、時に試合を大きく左右するプレーの舞台となります。痛烈なライナーやフェンス直撃の打球がツタの隙間に深く飛び込み、守備陣からも審判からも「打球が完全に消えて見失われる」という珍事が度々発生するためです。
このような特殊な構造に対応するため、MLB球場特別ルール(グラウンドルール)において、リグレー・フィールド独自の取り決めが厳格に定められています。
打球がツタに入り込んだ際の基本判定:
① フェンスのツタにボールが挟まったり、奥に潜り込んで見えなくなったりした場合、外野手は「ボールを探さず、即座に両手を高く挙げて審判にアピール」しなければなりません。
② 審判団が打球を見失った状態を確認するとボールデッドとなり、打者走者にはグラウンドルール エンタイトル2塁打(2個の安全進塁権)が与えられます。
ここで極めて重要なのが外野手の判断です。もし外野手がアピールを行わずにツタの中を手で探ってボールを取り出そうとした場合、審判は「インプレー継続」と判断します。ツタをごそごそと探している間に打者走者がダイヤモンドを一周してホームインしてしまえば、ランニング本塁打が成立してしまうリスクを孕んでいるのです。
【ツタの種類と育成】過酷なシカゴの気候に耐える「ボストン・アイビー」の正体
フェンスを覆うツタの種類は、主にボストン・アイビー(和名:ツタ/ジャパニーズ・アイビー)と、一部にイングリッシュ・アイビー(セイヨウキヅタ)が混ざり合ったものです。特にボストン・アイビーは吸盤状の巻きひげを持ち、レンガや石壁にしっかりと自力で吸着して広がる性質を持っています。
シカゴは「風の街(Windy City)」と称されるほど冷たく強い風が吹き荒れ、冬には厳しい氷点下の寒さに見舞われます。過酷な気象条件に耐え抜く強靭な生命力を持ち、かつシーズン中の日差しを浴びて青々と繁茂する品種として、このツタが選ばれました。
リグレー・フィールドのグラウンドキーパー(施設管理スタッフ)は、試合の進行を妨げないよう、定期的に剪定作業を行っています。ツタが伸びすぎてスコアボードを隠したり、フェンスの広告やベンチスペースにはみ出したりしないよう、繊細な手作業でメンテナンスが続けられています。
【外野フェンスの真実】美しい緑の裏に潜む「硬質なレンガ壁」の危険性とクッション論争
テレビ画面越しには柔らかなクッションのように見えるツタですが、その裏側にあるのは正真正銘の頑丈なレンガ壁です。現代の最新ボールパークでは、外野フェンスに厚手の衝撃吸収ウレタンパッドを設置することが義務付けられていますが、歴史的建造物に指定されているリグレー・フィールドの外野フェンス レンガは、ほぼ当時のまま残されています。
ツタの葉が何層にも重なっているとはいえ、厚みはわずか数センチから十数センチ程度。時速数十キロで突進してくる外野手がフェンスに激突した際、衝撃を和らげる効果はほとんど期待できません。
過去には外野手がフライを追ってフェンスに激突し、手首の骨折や肩の脱臼、頭部打撲などの大怪我を負う事故も起きています。選手会や球界関係者の間では「安全のためにクッションフェンスを導入すべきではないか」という議論が過去に何度も巻き起こりました。しかし、1世紀を超える伝統の保護とファンからの熱烈な支持により、レンガとツタのフェンスは今なお現役の舞台として守られ続けています。
【季節の移り変わり】新緑から深緑、そして紅葉へ|ツタが見せる1年間のドラマ
リグレー・フィールドのツタは、メジャーリーグのシーズンを通じて劇的な表情の変化を見せます。カブス本拠地の季節の移ろいは、ツタの葉の色づきとともに進行していきます。
■ 4月(シーズン開幕直後):茶色のツルと剥き出しのレンガ
シカゴの春は遅く、4月の開幕戦前後はまだ葉が出ていません。茶色く乾いたツルの網目と、赤褐色のレンガ壁が剥き出しになった独特の無骨な景観が広がります。
■ 5月〜6月(初夏):萌え出る新緑のグラデーション
気温の上昇とともに小さな若葉が芽吹き始め、数週間のうちにレンガを覆い尽くします。淡い黄緑から鮮やかなエメラルドグリーンへと日々色合いを深めていきます。
■ 7月〜8月(盛夏):生命力あふれる濃密な深緑
真夏の時期には葉が最も大きく分厚く生い茂り、フェンス全体が重厚な深い緑色に染まります。ツタの中にボールが飛び込んで消える珍プレーが最も起きやすいのもこのハイシーズンです。
■ 9月〜10月(秋・ポストシーズン):赤と黄色に染まる壮麗な紅葉
秋風が吹き始めるレギュラーシーズン終盤、ボストン・アイビーは見事な紅葉を迎えます。燃えるような真紅や橙色にフェンス一面が染まり、激動のペナントレースをドラマチックに彩ります。
【リグレーフィールドのツタ】に関するよくある質問(FAQ)
Q1:打球がツタに入ったとき、外野手が無理にボールを取り出して投げたらどうなりますか?
A1:外野手が両手を挙げてアピールせず、自力でツタからボールを引っ張り出した場合、プレーは中断されず「インプレー」として扱われます。もし手探りに時間がかかって走者が本塁まで生還した場合、そのまま得点が認められてしまいます。そのため、外野手には「見失ったら一切触れずに両手を挙げる」という判断が徹底されています。
Q2:フェンスに激突する選手を守るための対策は何もされていないのですか?
A2:外野フェンス本体はレンガのままですが、フェンス際での衝突を防ぐため、アンツーカー(外野ウォーニングゾーンの土)の幅を広めに確保するなどの配慮がなされています。また、選手側もリグレー・フィールドでプレーする際は、フェンス手前の足元の感触で距離感を慎重に測りながら守備位置を取る技術が求められます。
Q3:ツタが完全に枯れてしまったり、病気になったりすることはないのですか?
A3:寒冷地に適した自生力の強い品種が選ばれているため、完全に枯死することは稀です。ただし、厳しい冬の寒波で部分的にダメージを受けることはあるため、専門のグラウンドスタッフが土壌の栄養管理や害虫駆除、傷んだ枝の補修などを年間を通じて徹底管理しています。
まとめ:100年を超える歴史と伝統が息づくカブスの聖地
リグレー・フィールドのツタは、単なる球場の装飾にとどまらず、ビル・ヴィークの遊び心あふれる美意識と、1世紀にわたり紡がれてきたベースボールの豊かな文化を今に伝える生きた遺産です。
春の芽吹きから秋の紅葉に至る四季折々の美しさや、打球が植物に吸い込まれるスリリングなグラウンドルール、そして緑の奥に鎮座する歴史あるレンガ壁。最新鋭のドーム球場やハイテクスタジアムが増加する現代において、自然の息吹とともに呼吸するリグレー・フィールドのフェンスは、これからも世界中の野球ファンを魅了し続けます。 (出典: リグレー フィールド ツタ(Yahoo!ニュース))